荒巻 慶士

UPDATE
2020.11.24

最近の法律関係情報

非正規格差に関する最高裁判決

 先月13日と15日に、雇用の非正規格差をめぐる最高裁判決が相次いで出された。結論をまとめると、退職金と賞与の不支給は不合理ではない、年末年始勤務手当、夏期・冬期休暇、年始勤務の祝日給、扶養手当の格差は不合理といったものである。しかし、結論だけを一般化するのは短絡的だ。

 

 重要なことは、判決を導いた考え方を理解することだ。

 これは、賃金の支払いや休暇の付与の趣旨・目的と働き方について整合性を個別に見ていくもので、その会社、その社員について具体的に検討される。私傷病欠勤についての有給・無給の差異について、13日の判決と15日の判決で合理性の判断が分かれたのも、一方は長期雇用が前提とされていない、他方は相応に継続的な勤務が見込まれていると判断されたためと考えられる。

 

 待遇差を検討するに当たっては、賃金や休暇などの待遇について、なぜそのような待遇をするのかを改めて問い直し、さまざまな働き方をしている社員それぞれに妥当するかどうかを吟味することが大切だ。

 そして、待遇の差異についての合理性が確かなものであるかどうかは、その検討結果について、それぞれの社員にわかりやすく説明できるかどうかにより、確認できると思う。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2020.09.28

その他

心のビート

 人に頼んで心臓の鼓動を聴いた。

 ドアに響くノックのようである。たしかに、胎児のくぐもった心音は、未知の世界の扉をやわらかく叩いている。

 生まれた後も止まることなく刻み続けるドラムのビートは、速くなり遅くなり、手足や声に向けてタクトを振る指揮者のようだ。

 

 死のニュースを聞かない日がない。

 この春からはコロナ死の数を知らされる毎日だ。仕事でも、私生活でも、身近な人の訃報に接することも多い。

 

 心拍は死ぬ前に遅くなるか。

 突然止まるのか。

 余韻を残して終わるひとつの曲を思う。

 

 

荒巻 慶士

UPDATE
2020.07.15

その他

一国二制度の終焉

    香港は終わった。ネット上では、そんなつぶやきが聞かれた。先月30日、香港国家安全法が成立、施行されたことを受けてのものだ。

 これにより反中的な言動が犯罪とされるおそれが生じ、彼の地における政治活動の自由は著しい制約を受けることとなった。早速、その翌日の今月1日には、逮捕される者が出た。最初の逮捕者は、バックパックの中に「香港独立」と書かれた旗を持っていたのだという。

 

 日本では憲法上保障される権利を不当に制限するものとして、違憲無効とされる法律といえるが、香港においても、デモ隊の覆面を禁じる条例に関し、裁判所が憲法に相当する香港基本法に違反すると判断し、この条例の執行が停止されたことがある。これについては、昨年11月のコラムで、香港は中国に属することにはなったが、一国二制度はまだ維持されているのだと認識したと書いたところだ。

 

 香港基本法はそのままであるから、国家安全法もこれに反し無効ともいいうる。香港の立法機関である議会の議決を経ていない点でも、その違憲性は明らかだといえるが、国家安全法によれば、国家の安全にからむ事件を審理する裁判官は行政長官により指名されるのだという。

 そうすると、同法を違憲無効と判断される余地はまずないということになる。

 

 国家安全法の内容と制定の経過を見れば、香港において、政治活動の自由とともに、それを制度的に担保する三権分立が排除されており、一国二制度はまさに終焉したといえそうである。

 同法の施行を伝えた新聞は、その紙面で、ふるさと納税に関し泉佐野市が国に逆転勝訴した最高裁判所の判決を報じていた。自由主義・民主主義という価値を国の根底に据える日本国民として、香港市民の〝窒息〟には黙っていることはできない。

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