荒巻 慶士

UPDATE
2021.11.12

その他

亡くなった方たちとの出会い

 相続財産管理人の仕事を始めて10年以上になる。家庭裁判所は、原則として利害関係のない第三者を選任するから、管理する財産の持ち主とは、亡くなってからの出会いとなる。これまでにこうして出会った方たちは何十人になるだろうか。

 

 相続財産管理人の選任を求めるのは、亡くなった被相続人の債権者や被相続人の財産を現に管理している者などの利害関係者だ。法定相続人がいなかったり、いたとしてもみな相続放棄をしたりして、相続人が不存在である場合に選任される。

 管理人は、被相続人の財産の有無・内容を調査し、その債権は回収し、財産は売却するなど換価して、管理・処分の上、債権者に弁済するといった仕事をする。

 

 自宅を遺して亡くなった方については、主を失った部屋に立ち入らせてもらうことになる。過去数十年に及ぶような公共料金の領収書類が整然と収納されているのを見つけ、几帳面な人柄に触れたり、楽器やカメラ、書籍などによりその趣味が窺われることも多い。

 家族のアルバムや親しい間柄の方からと思われる手紙にしばし見入り、生前の元気な姿が偲ばれて、しんみりすることもある。

 

 職務としては、経済的な側面を処理すれば足りるわけだが、室内に遺骨が残されていたり、位牌や仏壇が置かれていることも。そのような場合には、菩提寺に納骨、供養したり、墓じまいをしたり、お焚き上げを依頼することもある。

 会ったことのない方々だが、寄り添う気持ちを持って仕事を進めるように心がけている。もっとも、見ず知らずの弁護士の心配りも行き届かないことだろう。本人もどこかで、思わぬ死後の展開に意外な思いをしているのではないか。遺言書の作成など、「終活」をお勧めしたいところではある。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2021.09.21

その他

スープ

 涼しくなり、温かいものを口にしたくなる日も増えてきた。

 よくランチに訪れるイタリアンの店では、パスタと一緒にサラダかスープを出してくれる。以前からスープ派なのだが、その日は一層スープをおいしく感じたので、柔らかな滋味はどこから来るのか、思い切って尋ねてみた。

 イタリア人のシェフは、イタリア語でも英語でもなく、「トリのモモです、骨付きの」と流暢に答えてくれた。

 

 そこで、思い立って、この連休に食材を買いに行き、野菜たっぷりで身体にやさしい、このスープの再現に挑むことにした。

 骨付きのモモ肉がなかったので、手羽元で代用。野菜は小さく刻み、玉ねぎ、人参、ズッキーニをじっくり炒め、大根、ブロッコリー、しめじと合わせて煮込んだ。

 

 ネット上のレシピの力も借りて出来上がったその味は、馴染みの店の味とは少し違った。それでも、スプーンを口に運ぶと、豊かなうま味が広がった。

 家族もおかわり、と好評で、鍋いっぱいに作ったが、あらかたなくなった。

 秋の始まりにふさわしい一日だった。

荒巻 慶士

UPDATE
2021.07.26

その他

安全に動くための知恵

 コロナ2年目の夏はことさら暑く感じる。マスク着用は習慣となったが、この時期の息苦しさには慣れるものではない。ワクチン接種は、予約にも苦労する状況で、期待どおりに進んでいるとは言い難い。

 

 東京オリンピックは開幕した。しかし、開会式は、マスク姿で入場行進、がらんとしたスタンドに手を振る異例なものだった。

 関連施設の集まる湾岸地域に住んでいるが、巨大な施設の周りでは、多数の警察官と運営関係者ばかりが目につき、外国人はもちろん、人気はまばらで、国際交流の場としては幻に終わった形だ。

 

 応募したチケットのうち、一つだけ当選したものがある。有明アーバンスポーツパークで行われる自転車(BMX)競技。この特設の会場は、青空に突き立つように観客席が設置されている。この開放的な施設に観客を一人も入れないことに、感染防止上どれだけの意味があるのかと疑念も湧いてくる。

 全員動くなと言われても、自宅周辺の公園や図書館、スーパーなどは夏休みの家族連れで密となる。観光地はがらがら、酒禁止では、旅行・飲食は干上がってしまう。

 

 テレビ観戦が模範的な国民なのかもしれないが、ストレスは高まりそうだ。労働相談の現場では、職場でのコミュニケーションを欠くゆえのトラブルや、職員の心身の疲労が目につくこの頃である。

 いつまでも不要不急の外出をやめよというよりも、安全に動くための知恵と工夫がほしい。そろそろそんな蓄積があってもよいはずだと思う。

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