荒巻 慶士

UPDATE
2022.05.24

その他

住む場所を変える

 最近、転居をした。近くではあるが、荷物をまとめ、部屋をきれいにし、家具を整え、箱を開いて、収納することには、相当な労力を要することを改めて認識した。住所変更に伴う諸手続はまだまだ終わっていない。

 

 慣れているはずだがと思い返すと、これまで引っ越しの回数は20を軽く超えている。それぞれ相応の理由はあるが、生活をリセットしたくなるところもある。本や書類、衣類や食器、身の回りの品々を手に、処分・整理を決めて、身軽になると、気分も変わる。新たなことがしたくなってくるものだ。

 

 転がる石のように転々と、場所に囚われない生き方も悪くないと思い、あこがれたこともある。見慣れない景色、未だ知らない文化と出会う生き方。海外において実際に、そんなライフスタイルを貫いている人もあると聞く。その自由な視界には、どんな地平が広がっているかと思ったりする。

 

 目を転じれば、天災や戦争で意思に反して住み慣れた場所を離れなければならない人がいる。望郷を胸にした新たな生活が、未来を展望できるものであってほしいと願う。

荒巻 慶士

UPDATE
2022.03.17

その他

つながっている

 この数週間、胸のつかえと心底のおりのようなものを感じて、寝ても起きても気が晴れない。ウクライナ情勢のことだ。

 空気の緩むこの時期に、連日死者の報道がなされ、3.11を控えて原子力発電所への攻撃が伝わる。この100年の歴史の教訓とは何だったのか。憂鬱の念に襲われる。

 

 振り返れば前兆はあった。ロシアに関して言えば、クリミア半島の併合を指摘されるが、例えば、このコラムでも取り上げた香港の非自由化・非民主化をなすすべもなく既成事実化された現実は、有無を言わせぬ隣国への侵攻につながっているのではないか。

 今こそグローバル社会における自由や民主主義の価値を確認し、強い関心をもってこれを守るためのコストを負担する覚悟が必要だろう。

 

 一つの光明は、SNSに見るような個人による現場からの発信や国境を越えた情報の連携である。かつてのように権力が情報を遮断し、民意を操作し切るのは難しくなっている。国を成り立たせている個人は、歴史から戦争の無益と悲惨を十分に学んでいると信じ、つながっていたい。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2022.01.20

その他

旅心に誘われて

 ふと思い立って旅に出る。そんなことをしなくなってどれくらい経つだろうか。逃れがたいスケジュールに、ここへ来てコロナの追い打ちである。先が見えないだけに、旅への思いは募るばかりだ。

 

 20代のころ、アメリカに留学し、帰国前に、長距離バスで大陸を横断した。ニューヨークからシカゴへ、シカゴからニューオリンズに、ロッキー山脈を越えてサンディエゴ、北上してサンフランシスコへという行程だった。宿も決めない、出たところ如何の若さに任せた旅だった。

 記憶には匂いが伴う。バスから降り立つと、胸を満たすのは、アスファルトに積もった、底冷えする夜の雪、雑踏のほこりや、砂漠の乾いた風、温泉の蒸気‥‥。その肌に触れるに近い感覚は、バーチャル旅行ではもちろん味わえない。マスク姿では半減、興ざめだろう。

 

 コロナ下で、顔と顔、手と手を介しない情報のやり取りは、ますます増えていくに違いない。このようなコミュニケーションもおろそかにできないことは承知している。長期戦に備えて、わが事務所も法的サービスのあり方を改めて考えているところだ。裁判所の手続も電子化が急ピッチで進んでいる。

 それでも、生の〝触感〟は代えがたいものがある。窮屈さからいずれ解放される時を心待ちにしながら、旅への夢想を膨らませている。

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