荒巻 慶士

UPDATE
2023.05.27

最近の法律関係情報

中小企業の過重労働

 一定時間以上の残業に対する割増賃金の割増率をアップする労働基準法の規定が、この4月から中小企業にも適用されている。

 ひと月の時間外労働が60時間を超えた場合、賃金を通常より5割以上割増しして支払わなければならないこととする労働基準法37条1項で、大企業に対しては平成22年4月から適用され、これに則った運用がなされているが、中小企業に対しては、長らく適用が猶予されてきた。深夜残業と重なった場合には、75%以上の割増しとなるから、確かにそのインパクトは大きい。

 

 これを踏まえた対応は、対象となる企業側において十分なされているだろうか。経験的に窺い知る中小企業の実情を考えると、不安を禁じ得ない。

 大企業と異なり、法務・コンプライアンスに関わる人材は不足し、適法に業務を管理する体制は脆弱で、弁護士など日常的に相談できる外部の専門家を持たない会社も多くあるのではないか。そもそも法令を守ろうとする意識が十分でなく、問題に気づいても、これを調べたり、相談しようという習慣が乏しい傾向がある。

 

 残業代の割増しに関しては、払えばよいという問題ではない。過労死につながるような過重な労働をなくすこと、長時間労働を抑制するのが目的である。

 そもそも一日8時間、週40時間を超える労働(残業)については、労働者代表との協定(36協定)が必要であるが、この協定すらない、形の上であったとしても代表を社員の意思に基づいて民主的に選出していない、就業規則もあったとしても、周知されていない、こうした基本的なルールすら守られていないケースがまま見られる。

 

 大企業の過重労働がマスコミに取り上げられ、世間の関心事として社会的に注目される陰で、中小企業の労働環境が見過ごされている実態はないか。違法に残業させれば、代表者に懲役刑が科されうる。残業代の不払いも犯罪として罰金刑がある。

 中小企業が抱える課題には、私たち法の専門家を含め、真摯な取り組みが必要だ。目立たぬ〝ブラック〟に目をつむることがあってはならない。

 

 

 

 

 

 

荒巻 慶士

UPDATE
2023.03.09

その他

事務所開設7年

 3月1日に、秘書から「開設7年ですね」と言われ、そういえば、そんなに…、としばし感慨に浸った。人でいうと、七五三を無事終えて、身体の弱い幼児期をようやく乗り超えたことになろうか。

 

 振り返ると、総じていえば、真摯に案件に取り組み、焦らず、地道に進んだ7年間であったと思う。開設当初の依頼者との信頼を深めつつ、そこから紹介いただき、横に広がってという具合だ。

 

 会社にあっては、何代も担当者が変わった依頼者もある。きちんと引継ぎがあって、変わらぬお付き合いをいただいているのは、ありがたい気持ちでいっぱいである。

 

 事件と人とのめぐりあいを楽しみつつ、まだまだ序章と心得て、〝成人〟まで成長、飛躍していく所存だ。

 

 

 

 

荒巻 慶士

UPDATE
2023.01.31

その他

年初にあたって

 正月早々、帰省先を巻き込んで家族で大かぜをひいた。幸いコロナではなかったものの、高齢の両親は病院で薬をもらうにも一苦労。コロナ感染の疑いから、あちこち受診先を問い合わせ、ようやく予約は取れたが、駐車場の車中で長時間待たされるという事態となった。

 コロナも〝普通のかぜ〟になっていきつつあるが、流行の波に合わせて、今後も神経質な対応を迫られることになろう。昨年は、感染拡大のあおりを受けた会社の倒産申立てを受任した。ウェブ会議やリモート勤務も定着してきて、非接触型の社会へと傾斜しているが、メンタルヘルスやコミュニケーション不足によるトラブルなど、労働相談においても、負の側面が顕在化している。

 

 ウクライナや台湾などをめぐるロシア・中国といった海外の覇権国家との対立の先鋭化は、物価の高騰や防衛力強化のための増税など、国内問題として身近に影を落とし始めている。

 法曹に身を置く身としては、憲法9条の行方が気がかりだ。攻撃的に接すれば、攻撃的な対応が返ってくるのは、紛争の現場で見てきたありふれた光景である。軍事力を増強すれば、同様の反応があり、当初の増強で終わらないのは当然であろう。軍拡を競う前に、こうした国家に対するこれまでの対応に問題がなかったのか、顧みる論説は多くないように思う。

 

 もう一つの気がかりは、法曹三者、つまり裁判官・検察官・弁護士の志望者が減っているということだ。司法試験の合格率は、かつて2、3パーセントだったが、今は40パーセントほどである。それでも、以前年に3万人いた受験者は3000人程度だという。

 司法は国家の骨格で、細ると軟体動物のように、捉えどころのない、行き当たりばったりの弱肉強食社会となる。事件の現場では、同業者の振る舞いなどから、弁護士の仕事のサービス業化とともに、公正や正義の側面の弱まりを感じる局面が増えてきたように感じる。時間とお金をかけてロースクールで学んでも、法曹となる保証はなく、経済的にも報われないとするなら、志望者が減るのもわからなくはない。

 理系人気も理解できるが、司法は社会の正義・公正を担保する国家基盤であり、その重要さを社会全体で確認したい。弁護士の仕事に誇りを持ち、改めてその振る舞い様にも心したいと思う。

 

 遅ればせながら、年初に当たっての所感である。

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