後藤 慎吾

UPDATE
2018.10.10

その他

教えるということ

ある大手IT企業の法務部からの依頼で法務教育プログラムの企画・運営の仕事をしています。このプログラムの目的は「よりよい法律文書を作成できるようになる」というものです。私から月1回出題する企業法務に関する問題について、①数名の若手法務部員が答案を作成し、②私がそれについて添削を行い、③法務部員が私のコメントを前提に答案を修正し、④私が修正案について再度コメントをした上で、⑤最後に私が1時間程度のミーティングで①~④の過程で気づいた問題点などを踏まえて法律文書の作成法や法的な物事の考え方(リーガルマインド)などについてレクチャーすることになっています。さすがに、今を時めくIT企業の意欲にあふれた方々が受講者ですので、私の方でも、毎回、受講者の皆様にとって少しでも収穫のあるものにするために懸命に取り組んでいます。

 

クライアントやセミナー会社などから社内のコンプライアンス研修や外部セミナーの講師の依頼を受けることも多いのですが、できる限りお受けするようにしています。貴重な時間を割いて私の言葉を聞いて下さる受講者の方々に対して、わかりやすく、かつ、実務を行う上で有用な情報を提供できるようにするためには、私自身が、それまで身につけた知識をブラッシュアップし、また、理解が不足している事柄については様々な文献を読み込んだうえで、個々の情報をつなぎ合わせて体系化することが必要になります。普段の仕事で行っているリサーチでは自分自身が理解できればそれでよいわけですが、レクチャーの準備のためにするリサーチの場合には、それ以上のより深いレベルでの理解が求められることになります。たとえ自分が演題について豊富な知識や経験を有していると考えたとしても、今一度学びなおすことが当然の前提となるわけです。

 

というわけで、私は先述の法務教育プログラムやコンプライアンス研修などで講師役を一応務めてはいるものの、実はそこで最も多くの学びを得ているのは私自身なのかもしれません。クライアントにはこのような貴重な機会を頂けることに心から感謝しています。

荒巻 慶士

UPDATE
2018.09.24

企業法務関連情報

アウトか、セーフか

 ハラスメントの事案が増えています。

 

 その相談を時々受ける先の会社で、ハラスメントの防止に向けて社員を啓発するパンフレットを作ることになり、その内容をレビューして意見を述べる機会がありました。このほど完成した「ハンドブック」を送っていただいたのですが、多色刷りのしゃれた装丁で、イラストも豊富で読みやすく、適量であるのに内容も充実、見事な出来栄えでした。

 

 セクハラと聞いて、みなさんはどのようなケースを思い起こされるでしょうか。職場の力関係にものを言わせて性的関係を強要する場合? パワハラというと、気に入らない部下の仕事ぶりを毎日のように罵倒するといった場合でしょうか。たしかにこれらは典型例ですが、そんなのだめだなのはわかっているという方が多いのではないでしょうか。先に紹介した小冊子の特徴は、セクハラ、パワハラ、それぞれに多くの事例が掲載され、しかも割と微妙で、ある意味リアルな具体例が並んでいるところです。

 

 例えば、セクハラでいうと、「今日もかわいいね」という誉め言葉はどうかとか、取引先から、女性を連れてきてと頼まれたので部下に酒席に同行してもらった場合や、仕事が一区切りしたところで慰労のために部下を1対1で飲みに誘うケースなどが取り上げられています。いかにも現実にありそうな状況は、「パワハラ編」でも続きます。ミスを注意する際に、職場のほかの者をccに入れてメールで叱責する、「明日の有休は何するの」とチェックを入れる、などなどです。

 

 そんなこともできないの? うかつに注意もできないな、頑張ってもらおうとしただけなのに、ハラスメントといわれるくらいなら放っておこう…。そんな声が聞こえてきそうです。挙げられている事例も、常に必ずセクハラ・パワハラに該当するとは言い切れないもので、くわしい経緯・状況などによって、社会通念に照らして違法性が問われることになります。ただ、ハラスメントが懸念される場面であるといえるでしょう。

 

 形式的にこれはアウト、これはセーフと覚えても意味はありません。知らない場合はとりあえずやめておくということになれば、萎縮の弊害になりかねません。職場にはいろんな感じ方、考え方の人がいることを前提に、これって嫌がらせに至っていないか、自らの振る舞いをその時々の状況で考えてみることが大切です。

 

 さて、我が身を振り返り、自分の言動で秘書や同僚に不快な思いをさせていないか…。人間関係って、難しいものですね。

後藤 慎吾

UPDATE
2018.08.27

その他

民法改正とノスタルジア

今月、私が監修した民法(債権関係)改正に関する記事が創業手帳Webというウェブサイトに掲載されました(https://sogyotecho.jp/civil-law-amendment/)。民法の債権関係の規定は、同法の制定以来約120年の間、ほとんど改正されることはありませんでしたが、昨年5月にこの分野の全面的な見直しを目的とした改正法案が成立し、2020年4月1日に施行されることになっています。

 

随分と昔の話になりますが、私が司法試験の受験を決意して法律の勉強を始めたころの民法の第1編(総則)・第2編(物権)・第3編(債権)は、片仮名・文語体で表記されていました。例えば、民法第1条第1項は「私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ」、同条第2項は「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」といった具合です。初めて六法全書を開いたときに目に飛び込んできたこのような難解な条文の表記方法に面食らったのをよく覚えています。戦後、新たに制定する法律はすべて平仮名・口語体で表記されるようになりましたが、明治29年に制定された民法の第1編から第3編については平成17年まで片仮名・文語体の表記が維持されていました。今は、民法の第1編から第3編も現代語化されており、民法第1条第1項は「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」、同条第2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定されています。

 

今回の民法の債権関係の規定の改正項目は200程度あり、非常に広範なものになっています。弁護士が仕事をしていくために民法の理解は必須であり、私も時間を見つけて改正民法の勉強をしているところです。司法試験の勉強をしていたころは毎日のように民法の基本書を読み込んでいたものですが、弁護士として仕事をするようになってからは、依頼を受けた案件を解決するために必要な限度で民法の条文や関係する文献を検討することはあったものの、民法について網羅的・体系的に勉強することはありませんでした。今、個別の案件から離れて改正民法の勉強をしていると、法律家になることを夢見てあの難解な片仮名・文語体の民法と日々格闘していた若かりし頃の自分を思い出し、少しセンチな気持ちになったりしています。

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