働き方改革関連法案は、平成30年5月から6月にかけて、衆参両院を通過し、同法は成立しました。施行の時期は改正の内容により異なりますが、平成31年4月1日を基本として、順次施行されることになります。その内容が、多数の労働関連法規にまたがり、法律名を改めたり、ある法律の内容を別の法律に移したりという大がかり、かつ重要なものであることは、すでにこのコラムで述べましたが、今回は、その中身を具体的にご紹介したいと思います。
まず、長時間労働を是正するために、時間外労働について上限が画されます。月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む。)、2か月ないし6か月の各平均で80時間(同)が限度とされ、罰則をもって規制されることになります。
中小企業については、月60時間超の時間外労働に対する50%以上という割増賃金率の適用が猶予されていましたが、その猶予措置は廃止されることになりました。これは平成35年4月1日に施行される予定です。
また、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、使用者はそのうち5日について、毎年、時期を指定して与えなければならないとされました。
次に、多様で柔軟な働き方を実現するために、フレックスタイム制の清算期間の上限が1か月から3か月に延長されることになりました。
また、国会で野党の強い反対を受けていた、いわゆる高度プロフェッショナル制度が創設されました。これは、特定の高度に専門的な業務に従事する高年収の労働者について、労働基準法上の労働時間・休日等の規制の適用を除外するというものです。過重労働に対する懸念を考慮して、年間104日の休日が確実に取得されることなどの健康確保措置を講じることや、本人の同意や委員会の決議等を要件として、適用されることとされています。適用対象となる業務や年収の基準については、今後、厚生労働省令で定めることになっていますが、金融商品の開発・ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発などの業務が念頭に置かれ、年収1075万円の水準が参考とされています。
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、すなわち、いわゆる非正規雇用による格差の是正も重要な改正のポイントです。
まず、短時間(パートタイム)・有期雇用労働者に関しては、正規雇用の労働者との間で、不合理な待遇格差が禁止されていましたが、その不合理性の判断については、個々の待遇ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断される旨が明確化されました。これは、平成30年6月1日になされた2つの最高裁判決(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)においてなされた検討の方法と同様のものです。なお、有期雇用労働者について不合理な待遇格差を禁止していた労働契約法20条は、法律名を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理に改善等に関する法律」に変更したパートタイム労働法内に収容されることになっています。
また、短時間労働者については、すでにパートタイム労働法に規定がありましたが、有期雇用の労働者についても、職務内容と職務内容・配置の変更範囲が同一である場合には、均等の待遇を確保しなければならないことになりました。
他方、派遣労働者については、派遣先の労働者との均等・均衡待遇、一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等)を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保しなければならないこととし、その公正な待遇が図られるように定められました。
このような正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等については、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者から求めがあった場合、使用者はこれを説明する義務を負うこととされています。雇用する側の会社としては、雇用形態による待遇差について合理的な説明ができるように、処遇を検討する必要が出てきます。
このような非正規格差是正に関する改正は、平成32年4月1日に施行されることになっています。
以上個々の規制について紹介をしてきましたが、今回の法改正については、背景にある理念に注意が必要です。
雇用対策法は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という名称に変更され、その目的には、「労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進」することが加えられています。この理念が、労働時間の短縮や多様な就業形態の普及、雇用・就業形態の異なる労働者間の均衡・均等待遇の確保に関する各種の法規制につながっているわけです。
雇用対策法から名称の変わるこの法律の第6条には、事業主の責務として、雇用する労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善その他の労働者が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができる環境の整備に努めなければならないものとされています。
今回の法改正は、少子高齢化を背景とした、成長戦略としての労働政策の色彩を帯びており、今後も同様の趣旨の法改正や政策の展開が予想されるところです。