後藤 慎吾

UPDATE
2018.12.10

その他

学び舎

大阪地方裁判所に係属している事件の期日に出頭するため、このところ毎月大阪を訪れています。大阪地裁の庁舎に足を踏み入れるたびにとても懐かしい気持ちになります。というのも、私にとって大阪地裁は学び舎ともいうべき場所だからです。

 

我が国で裁判官・検察官・弁護士になるためには、原則として、司法試験に合格したのちに司法修習を修了する必要があります。司法修習生はそれぞれ、全国各地の地方裁判所に配属され、一定の期間、各地の裁判所・検察庁・法律事務所で法曹実務家から直接指導を受けながら法律実務を学ぶこととされています。私は、20027月から9月までと20031月から3月までのそれぞれ3か月間、大阪地裁で刑事裁判と民事裁判の修習をしました。

 

司法修習生は、法廷で様々な事件を傍聴したのちにその事件の判決を起案し、指導裁判官に判決案を添削してもらいます。そして、その添削結果を前提として指導裁判官と議論することによって事件の法的構成や事実認定の仕方などについて理解を深めていくのです。弁護士が法的紛争を適切に解決するためには、その紛争について訴訟が提起されたと仮定してその事件を担当する裁判官はどのような法的帰結を導くのかという点について推測することが求められます。裁判官の考えや視点に直に触れることができた大阪地裁での経験は私にとって貴重な財産になっています。

 

大阪地裁の正門からその庁舎を仰ぎ見ると、この場所で奮闘していた若かりし頃の自分が脳裏に浮かびます。その時期から15年以上がたちましたが、今の私は、当時の私からどれだけ成長できたのでしょうか?今の私は、当時の私が思い描いた将来の私になれているのでしょうか?学び舎というものはそんな振り返りの機会を与えてくれるものなのでしょう。そして、これらの問いの答えは・・・いやはや、人生って思い通りにはいかないものですね。

 

後藤 慎吾

UPDATE
2018.10.10

その他

教えるということ

ある大手IT企業の法務部からの依頼で法務教育プログラムの企画・運営の仕事をしています。このプログラムの目的は「よりよい法律文書を作成できるようになる」というものです。私から月1回出題する企業法務に関する問題について、①数名の若手法務部員が答案を作成し、②私がそれについて添削を行い、③法務部員が私のコメントを前提に答案を修正し、④私が修正案について再度コメントをした上で、⑤最後に私が1時間程度のミーティングで①~④の過程で気づいた問題点などを踏まえて法律文書の作成法や法的な物事の考え方(リーガルマインド)などについてレクチャーすることになっています。さすがに、今を時めくIT企業の意欲にあふれた方々が受講者ですので、私の方でも、毎回、受講者の皆様にとって少しでも収穫のあるものにするために懸命に取り組んでいます。

 

クライアントやセミナー会社などから社内のコンプライアンス研修や外部セミナーの講師の依頼を受けることも多いのですが、できる限りお受けするようにしています。貴重な時間を割いて私の言葉を聞いて下さる受講者の方々に対して、わかりやすく、かつ、実務を行う上で有用な情報を提供できるようにするためには、私自身が、それまで身につけた知識をブラッシュアップし、また、理解が不足している事柄については様々な文献を読み込んだうえで、個々の情報をつなぎ合わせて体系化することが必要になります。普段の仕事で行っているリサーチでは自分自身が理解できればそれでよいわけですが、レクチャーの準備のためにするリサーチの場合には、それ以上のより深いレベルでの理解が求められることになります。たとえ自分が演題について豊富な知識や経験を有していると考えたとしても、今一度学びなおすことが当然の前提となるわけです。

 

というわけで、私は先述の法務教育プログラムやコンプライアンス研修などで講師役を一応務めてはいるものの、実はそこで最も多くの学びを得ているのは私自身なのかもしれません。クライアントにはこのような貴重な機会を頂けることに心から感謝しています。

後藤 慎吾

UPDATE
2018.08.27

その他

民法改正とノスタルジア

今月、私が監修した民法(債権関係)改正に関する記事が創業手帳Webというウェブサイトに掲載されました(https://sogyotecho.jp/civil-law-amendment/)。民法の債権関係の規定は、同法の制定以来約120年の間、ほとんど改正されることはありませんでしたが、昨年5月にこの分野の全面的な見直しを目的とした改正法案が成立し、2020年4月1日に施行されることになっています。

 

随分と昔の話になりますが、私が司法試験の受験を決意して法律の勉強を始めたころの民法の第1編(総則)・第2編(物権)・第3編(債権)は、片仮名・文語体で表記されていました。例えば、民法第1条第1項は「私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ」、同条第2項は「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」といった具合です。初めて六法全書を開いたときに目に飛び込んできたこのような難解な条文の表記方法に面食らったのをよく覚えています。戦後、新たに制定する法律はすべて平仮名・口語体で表記されるようになりましたが、明治29年に制定された民法の第1編から第3編については平成17年まで片仮名・文語体の表記が維持されていました。今は、民法の第1編から第3編も現代語化されており、民法第1条第1項は「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」、同条第2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定されています。

 

今回の民法の債権関係の規定の改正項目は200程度あり、非常に広範なものになっています。弁護士が仕事をしていくために民法の理解は必須であり、私も時間を見つけて改正民法の勉強をしているところです。司法試験の勉強をしていたころは毎日のように民法の基本書を読み込んでいたものですが、弁護士として仕事をするようになってからは、依頼を受けた案件を解決するために必要な限度で民法の条文や関係する文献を検討することはあったものの、民法について網羅的・体系的に勉強することはありませんでした。今、個別の案件から離れて改正民法の勉強をしていると、法律家になることを夢見てあの難解な片仮名・文語体の民法と日々格闘していた若かりし頃の自分を思い出し、少しセンチな気持ちになったりしています。

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