荒巻 慶士

UPDATE
2020.05.06

その他

緊急事態宣言の延長に際して

  瞬く間に感染の広がりを見せた新型コロナウイルス。わずか1か月で国内外の様相が一変した。自由な外出はままならず、不要不急とは何か日々判断を迫られる。まるで良心を試されているようだ。

 

 わが事務所のある日本橋界隈も、デパートなど商業施設は軒並み営業を取りやめ、神田方向に多くある小規模な店舗には当初営業をしているところもあったが、先月の緊急事態宣言後、ほとんど休業へ傾いた。街は閑散として静まり返っている。

 当事務所も、秘書ら事務局の出勤をできるだけ控えてもらい、弁護士が中心に事務所を守る形にした。法律相談もメールや電話、ウェブ会議などを利用して続けているが、不便なことこの上ない。しかし、こんな時こそやれることをしっかりやる、必ず克服できる問題と心得て前を見ている。

 

 何と言っても直撃を受けているのは、業務のスタイル上人が集まらざるを得ない小売・飲食・ホテルなどのサービス業だろう。そこに働く人の暮らしや経営者の心労を思う。緊急事態宣言が延長され、売上のない中で負担を続ける人件費や賃料などの固定費は、まさに死活問題であろう。

 人件費については、雇用調整助成金の拡充が始まり、賃料についても公的な支援が検討されていると聞くが、手を差し伸べる速度も問題だ。

 

 営業の自粛要請は、法律に基づく国や自治体の要請だ。客観的に見て使用・収益ができない状況の下で、その対価である賃料を何とかしてくれという考えは公平に適う。借主の創意・工夫も必要だろうが、賃料が免除・減額されるべきであるという考えには法的な根拠がある。公的な支援がなかなか届かない場合には、手を挙げてしまう前に貸主との協議・交渉をしてみてほしい。弁護士が助力することも可能だ。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2020.03.22

その他

3月に見る夢

 3月は死を想う月。毎年のようにこの時期に、そういうコラムを書いて5年目を迎えた。生と死が、別れと出会いが交錯する季節。

 

 9年前の3月11日には、東日本大震災があった。その前には、地下鉄サリン事件が。先日、25年を経て後遺症に苦しんできた被害者の方が亡くなったという。そして、世界的にコロナウィルスの感染が広がり、これまでに報告されていなかったという病原体に脅かされる日々。

 

 高齢化のあらわれか、身の回りで人が亡くなる話が多いと聞いた。当方の扱う事件でも、死にまつわる事件が増えている。

 生があるから語られる死がある。死を想うのはとても自然なことだ。人の生命はまさに大河の一滴か。

 

 川に削られた地層に眠る人の影を夢に見た。花見も自粛の動きだが、幸い身軽な当事務所は例年どおりの会とした。

 

 

 

 

 

 

荒巻 慶士

UPDATE
2020.01.06

その他

保釈中の被告人の逃亡

年末年始は大きなニュースが続いた。 

考えさせられたのは、カルロス・ゴーン氏の海外逃亡と米国によるイラン革命防衛隊司令官の殺害の報道だ。

 

 司法に関わる者からみると、ゴーン氏の国外脱出というのは実に恥辱的で、弁護人は絶対に逃げないと大見得を切って保釈を勝ち取ったのだろうから、穴があったら入りたいという気持ちだろうと思う。逃げないと約束すると言われて手を放したら走り出したというようなマンガみたいな話だ。

 

 ゴーン氏は、正義から逃げたのではない、不正義から逃れたのだという。弁護人が依頼者に対し、日本の刑事制度はおかしいと力説したことは想像に難くない。刑事手続になじみのない外国人が、身柄拘束下において唯一自由に会うことのできるその世界のプロから、そのような話を何度も聞いて不正義だと認識を強めて、それが逃亡の口実となったのではないかと考えると、非常に残念なことだ。

 日本の刑事司法が世界的な広がりをもって議論されているのも、この国が新たな時代を迎えていることを示すものだろう。例えば、取調べに弁護人の同席を許さないというのは、欧米からみると常識に反することになる。グローバル社会の中で、その正当性を堂々と主張できるのか、そういう検証が必要だと思う。

 

 もう一つのニュース、米国による暗殺だが、戦争の端緒となりうるものだ。戦争は殺人を合法化するとはよく耳にする。もう少し考えると、戦争にも正当化される場合と正当化されない場合があるはずだ。しかし、それを判断するための制度は十分ではない。

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