荒巻 慶士

UPDATE
2025.03.18

その他

民主主義の危機

 連日の報道に接し、トランプ氏が米国の大統領に就任してから起きている事態に驚いている。感じるのは、大統領の権限の大きさと、ほかでもない民主主義の現れである選挙の恐ろしさである。

 日本国憲法の前文には、「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なもの」であると書かれている。この言葉には、他を顧みない振る舞いが戦禍を招いたという反省がある。現憲法は多くを米国に依拠する。「押し付け憲法論」という主張があるくらいである。「押し付け」たその米国が、利己的に国際的な協調を乱している。

 

 大学を卒業し、米国へ留学した。海外に行くのも初めてのことだった。飛行機の中でフィッツジェラルドの「グレートギャツビー」を読んでいたら、隣の席から話しかけられた。出版社の編集者という。ニューヨークに夜に到着する便であるのに宿の予約もしていないのを気にかけて、自身の宿泊先のホテルまで同行してくれた。そこにはある種の冒険があり、夢や憧れがあった。

 米国の矛盾を感じることも多いが、自由や民主主義、法の支配という原則に関しては信頼があった。ここへ来て、喪失感は深いものがある。

 ウクライナのゼレンスキー大統領には、その感謝の言葉に、アメリカは自国の安全のためにやっている、これはエゴであり申し訳ない、くらいのことを言ってほしかったと言ったら期待しすぎなのか。

 

 民意が正しく反映されて、それが政策として実行されてきたのか。これに関する積年の不満が投票行動に現れたことはないのか。そういう指摘を聞く。

 振り返って日本の姿はどうか。投票先がないと感じて久しい。愚策の連続にため息が出る日々だが、米国という〝親〟離れが避けられない今、声なき声に耳を傾け、声なき声を上げることが必要だと思う。

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