後藤 慎吾

UPDATE
2024.10.22

その他

死について

今年の夏に母校の早稲田大学高等学院で「法学特論」という授業を担当する機会があった。受講生の3年生たち(この学校に通う生徒を校内では学院生という。)は、あまりに若く、まぶしかった。そういう彼らと今の私の違いは何かと考えたときに、それは「死」に対する感覚の違いなのかもしれないと思った。 

 

私は、高等学院に通っていた当時は自分の死が想像できなかった。至極当然のことだが、これまでに死ななかった人はいないし、当時も毎日のように訃報のニュースを目にしたはずだが、いつも他人事のように感じていた。なので、授業の冒頭で彼らに「君たちは永遠に生きると思っているんじゃないか。」などと挑発的なことを言ってしまった。 

 

私は、4年前に母を亡くした。母の死は、私にとって、人の死がどのようなものかを理解した初めての経験だった。そして次は私の番なのだと思った(父はまだ健在だが)。 

 

授業の最後に、学院生たちに私が好きな坂本龍一が生前好んで使っていた「Art is long, life is short.」という言葉を送った。これはヒポクラテスが医師を志す若い医学生に言った言葉で、坂本は芸術の意味で用いていたが本来のArtは技術(医術)という意味なのだという。人生の過半をとうに過ぎた私には身につまされる言葉だが、若い彼らにどこまで響いたのかは定かではない。大人になってようやく理解できることは多くある。死もそのうちの1つなのだと思う。 

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