後藤 慎吾

UPDATE
2022.02.14

その他

辞書を読む

かなり昔のことだが、英和辞書を通読したことがある。

 

米国のロースクールに留学するためにTOEFLという英語の試験を受ける必要があり、その準備をしていたのだが、その過程で自分に英語の語彙力がないことに気付いた。それで、手元にあったジーニアス英和辞典を通読することを思い立った。当時のジーニアス(第3版)のページ数は2245ページである。気が遠くなる話であるが、一行一行に黄色の蛍光ペンを引きながら読み進めた。すべてのページを読み終えるまでにどれだけの日数がかかったのかは覚えていない。今でも鮮明に覚えているのは、私のジーニアスは、蛍光ペンを塗りたくられたことで各ページがしわしわになって膨張し、しまいには、本の厚さが倍くらいになって閉じられなくなり、パイナップルの葉のようになっていたことである。どのページも一面蛍光色に彩られた様はすこぶる壮観だった。

 

インクを吸ってまるまると太ったジーニアスを時折眺めては自己満足に浸っていたのだが、その後もTOEFLの点数は一向に上がらず、自分にはまだ語彙力が足りないのではないかと思い始めた。それで、再度、ジーニアスを1ページ目から読むことにした。今度は、表裏2ページを読んだら、そのページをはぎ取って、伝票差しに刺していった。伝票差しに刺された黄色い紙の束が日々少しずつ増えていくのを見るのがうれしかった。それとともに、ジーニアスが日に日にページを削られ、やせ細っていくのを見るといたたまれない気持ちにもなった。2回目の通読が終わったときには、ジーニアスは、すべてのページを失い紺色のビニールカバーだけになった。

 

この経験から私の英語の語彙力がどれだけ向上したのかは正直よくわからない。それでも、私にとって、刹那でも数万の英単語を記憶したという事実は残った。そのおかげで、その後は、これだけ努力してわからないのなら仕方がないと心の中で割り切れるようになり、英語でのコミュニケーションに物怖じしないようになった。少しばかり忍耐がいるが、英和辞書の通読は、英語に自信をつけたい方にお勧めの勉強法である。

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