荒巻 慶士
- UPDATE
- 2018.03.17
その他
桜咲く季節に
地下鉄に乗ってもよかったのですが、歩いて帰ることにしました。ひと月先を思わせる陽気に誘われたか、事務所に戻れば待っている少し重たい案件がそうさせたのか。遠くから、すでに枝は全体に赤みを帯びて、こぼれるように咲きはじめている桜を愛でながら、通りすぎました。振り返ると、みな道すがら、見上げては、つかの間の花見を楽しんでいるようでした。
3月といえば、学校は卒業式、会社は異動の季節。一つの年度が終わり、節目迎えて別れがある。そして4月には新たな出会いが待っています。毎年決まって咲く桜とともに、だれにも公平に流れる時の移ろいを思わせられる季節です。ただ、唯一、亡くなった者だけが、わたしたちの記憶にある在りし日のままに止まっている。
東日本大震災が3月に起きたのは偶然であったとしても、花咲くこの時期に、その記憶が呼び起こされるのは理由がある。それは、わたしたちの将来に向けて、天が与えた一つの契機であり、ヒントであるように感じられます。
戦争を体験した世代が、8月の夏空を見上げて呼び起こす思いに重なる、時の流れと止まる記憶。地下鉄に乗っていたら(仕事から逃げていなかったら?)、わたしたちは憲法を変えるのか、原子力発電所を動かしつづけるのか、国外にも輸出するのか…、この日想起しなかった問いかけです。